* 人工知能学会25周年企画パネル 「消えゆく学会 〜問い直される学会の役割と社会との関係性〜」 [#i15fc78e]

このページはしましまが人工知能学会25周年企画パネルに参加してとったメモです.私の主観や勘違いが含まれていたり,私が全く分かってなかったりしていますので,その点を注意してご覧ください.誤りがあれば,指摘してください.

- 日時:7月23日(土)14:00〜17:00  (開場: 13:30)
- 場所: 東京大学

* オープニング [#y97808ee]
松尾 豊

人工知能学会
- 1986年設立:今年が25周年
- 会員数 約3000人,減少傾向ながら安定
- 全国大会は盛り上がっている.参加者は横ばいぐらいだが,発表者は増えてる

背景
- 学会誌のサーキュレーション・影響力.ただ25年祝うっていうのは意味がある?
- 人工知能という言葉は増えてるが,学会の影響力ではなく,いろいろな個人の影響の集大成
- 境界が曖昧になってきている(全国大会の盛り上がり)
- 国際学会との関係性
- オンライン化したジャーナルの別刷り代の異議
- いろいろなウェブサービスと学会との関係

学会の意義はあるとは思うが,今の形ではないのではないか?

* 学術知識のウェブサービス [#t4cde2c4]
武田 英明(国立情報学研究所)

学会の歴史
- 科学者のコミュニティ:パリのカフェ,往復書簡
-- Peer Review 制度,情報交換
- 技術者の寄り合い(ギルドのようなもの)
-- 専門者認定,教育,情報交換 (Engineers で終わる名前の学会は多い)

日本の学会
- 裾野が広く,間口が広い:加盟者が人口比で多い,技術者も多い
- 数が多く,オーバーラップが多い:大小入り乱れ
-- 科学と技術の二つの源泉,輸入学問だから,派閥,社会的役割の自覚

学会の役割
- 同好会・コミュニティ,- 学会誌の発行,利益代弁者,社会に対する科学の代弁者
- 科学者の社会貢献:好奇心 と 社会での役割 の二面性
- 学会の中で意見統一で,中立的に言える助言にまとめる vs 科学的意見の議論が,社会的対立に利用される
-- よしかわ ひろゆき:中立的助言 と 合意した科学者の声

研究者にとっての学会
- 専門性の表現,発表の場,社会貢献(学会への貢献 + 本当の貢献)

近年の変化
- 電子出版の普及:安く,早く:出版社としての有意性の消失
- コミュニケーションチャンネルの多様化:学会の独占の消失
- 海外情報の中継者:海外に直接行きやすくなった

国際動向
- ジャーナル:出版社の寡占化と,オープンアクセス
- 国際会議が増えた,よい会議の囲い込み

学会の役割の二つの動向
- 社会的責任を負う学会:恒常的に存在すべき学会,教育,助言,出版,資格,ビジネスモデルは会費制
- 同好会学会:アドホックに消えてよい学会,同好会的

学会以外との関係:学術,一般,産業社会の融合をめざすべき

質問
- 企業の参加が減ってる:学会から得たもの→製品・サービスに
-- 学会からのリターンが少なくなっているという問題意識

* インターネット時代における国内外の学会の動向 [#q716ad7f]
神嶌 敏弘(産業技術総合研究所)


* disciplineとassociationから学会を考える [#tfa2538d]
木村 忠正(東京大学)

自己紹介
- 文化人類学が専門だった
- ネットに関係した研究から科学技術人類学へシフト

Discipline
- 学術的な研究をするための組織
- 原理的事実・理論ではなく,探求の過程
- 探求の過程=diciplineのあり方が歴史的に変化している

文系と理系の学会
- 文系学会規模:国内 600〜8000,海外:1万+
-- 徒弟制度的なところが多い…
- 文系の方が学部性は多いが,修士・博士は圧倒的に理系が多い
- 研究者数:文系 10万 vs 理系 70万
-- 企業所属の研究者は理系が多い
-- 対GDP比で日本は研究費の支出がトップだが,国庫からのものの比率は中位

disciplineの形成
- 18C〜19C前:ロマン主義と啓蒙思想が結びつく → 社会の上位から中位へ
- 19C前:ドイツで産学協同の実験室設置.化学・電気研究の発展 → 研究大学
- 19C後:巨大資本の形成 → 中産階級の科学者の形成
- 20C:科学が制度化されてくる=discplineに分かれてくる

産業システムが科学の枠組みを作っている
- 19C前:ラテン語などの一つの決まった古典教養を身につけさせる.
-- university:単一の教育ユニット
- 1820年代:department / college に分かれていく始まり
- 19C末:哲学→心理学,英文学→英語学 などの分離

近代産業社会と大学
- 近代社会の担い手の(労働者=消費者=市民)の育成
- 世界の理解,産業の発展,国家の競争力に資する組織体

Multiversity (Clark Ker 1963)
- 大学総長は,学生の友達,教員の同僚,卒業者と親しく,理事会については管理者,資金集め,立法者と渡り合ういろいろな側面をもつべき

- 日本の高等教育:戦後ずっと学生数や教員数がのびた
- アメリカの高等教育:80年代までは伸びていったが,その後は頭打ち

近代産業システムと学会
- 大学は近代産業システムの構成要素として発展してきた
- 産業システムは,(精算)組織(メンバーが固定)と(交換)市場(匿名の個人)の
-- 「人々を横に繋ぐなんらかのassociationが形成され,重要な補完的役割を果たす」
-- association は discipline の盛衰に影響

- discipline は必要だが,流動化にどう対応するのか
- association についてはどうなるのか?

open problem
- 大学なしで専門知識を得た人材を作れるか?
- 学会なしで,研究者の人事評価は可能か

* 学会運営におけるビジネスモデル(の必要性) [#if9e27e0]
植田 憲一(レーザー新世代研究センター)

自己紹介
- 日本物理学会誌で書いたが,ビジネスモデルはやはり重要だよ
- レーザーの研究が専門
- 20年とか同じコトをするのは廃れていていくので,研究者は変わらないというのはないかと
- 物理学会はまとまりがなくて野放し
- WebなどはCERNから出来たが,自分のためにやってたけど,結局,公的にも貢献している
- アメリカと日本の学会の両方の運営に関わったので違いが分かる
-- IUPUP(学会の出版)や日本学術会議メンバー
- 世界学会と国内学会のビジネスモデルの違いを痛感
- ここからの話は国内の話

米国光学会の運営に関わって→日本でいう公益とは違う
- ニューヨーク州はボランティアの理事は免責が認められる → アメリカの学会はニューヨークに本部をおく
-- 日本だと,何か知らずに実印を押さされる
- 理事会の報告は資産運用の説明から始まる ⇔ 日本では資産運用はできない
- 収益事業はやってよし:ジャーナル出版と国際会議(数億円もうかるときも)
- 収益は私的にポケットに入れなければ,学会活動に使う限り問題はない
- 学問を通じて公に資する

米国物理学会
- 出版で2.9億円を設けて,会議,会員,公共,運営に振り分け
-- 資産は40億円ほど

学会とは何か?
- 欧州の学会の系譜:Royal Society of London, Institute of France National Academy
- 一般の人も参加できる米国の学会ができた:APS, OSA, AIP など
-- 日本の学会の成立はそんなに海外と比べて遅くはなかった
- 組織は私的だが,やってることは公的

世界における知的活動拠点研究会
- ネット時代の学会・学術出版:ネットで高価値な情報を流そう
-- コンテンツとしてジャーナルなどを流そうといったけど,政策には反映されなかった
- 欧州:standing on the shoulders of giants だから,私的に学術の結果を囲い込んでは行けないという認識
-- 米国:学会で高度に公的な存在で,学会で私的に囲い込んでは行けない
-- 日本:世界でもっとも大衆的,非会員と会員の格差は非常に小さい.会委員数が多く,会費も安い

日本の学会は世界で最も組織化されている
- アカデミアと企業研究の垣根は低い
-- 日本は学生が発表できる(人材育成)⇔ 海外だと博士号なしではプレゼンしない
- 米国物理学会 14000 vs 日本物理学会 17000,応用物理学会 24000
-- 日本物理学会だけで3倍以上の組織率
- エリート育成よりも,平均の向上になってる → 平均の向上を今後失ってもよいのか?

学会は消え去るのか
- 風当たりが強い:社会貢献への観点は重要
-- AIP (American Institute of Physics) 物理学の学問成果を社会に普及させる組織
- 学会の原点とは?学会がになうものは文明(合理)か?文化(不合理)か?
-- 多くの文明の中で欧州文明だけが科学を作り出した
- 学会しか担えないものは何か?その機能はどのようなシステムで代替できるか?
-- 一般社会の原理:悪貨は良貨を駆逐する
-- 学術社会の原理:質の悪いものは淘汰され,優れたものは生き残る
- 学問はある時点で革命がおき,観点が変わること
-- アインシュタインの最初の論文はphysical reviewでrejectされた → 転換点ではそれを乗り越える質が必要
--- 各時点では最善とは言えないかもしれないが,長い目でみれば普遍的といえる内容が最終的残る

日本の理科系学会
- 英文:77誌,和文誌会誌を入れると約360
-- 国際化に苦しむ
-- 多くの学会をパッケージ化して,ジャーナルのレポジトリも統合したい

質問
- いい論文が落とされることがあるんじゃないか?
-- 事前評価・事後評価の両方
- 論文の通り安さでテーマを選ぶのかで良貨が淘汰されてる
-- 選択しているということが価値をきめ,その後はそれを説明するだけの作業

* 社会コンサルト化する学会:行政や政府,企業との関係性 [#i6f62251]
山川宏(富士通研究所)

自己紹介
- 物理から情報へ転向してきた
- 研究者の人生ゲーム:研究キャリアのシミュレーションゲーム
-- 社会貢献とかを言われるけど,キャリア形成の部分しかゲームには組み込めなかった

- 企業は,論文より特許をめざしたい背景
- 論文・会誌の購読料の収入が消えて,何を収入にすればいい?

ビジネスモデル
- 発表者を増やす参加型
- コンサルティングによる収入

学会の役割
- 専門家の知識の構成
- 専門知識の一般知識への翻訳

技術論文
- 目先のことではなくて,ずっと先にどうなるのかということを企業は求めているので,そのあたりを提供
-- 学術会議がロードマップをかくべき(?)

学会が投資先をきめるときのコンサルになって,専門家にもフィードバックがある枠組みがあれば

* 議論 [#k470cc94]

- 武田:日本ではジャーナルで収入を得るのはパイの小さくなる日本語では無理
- 神嶌:ビジネスモデルは縮小均衡,チュートリアルによる収入
- 木村:コンサルは具体的にどうする? → 山川:マッチングとかを行う
- 植田:論文にしなければ知識は消えるから論文誌は必要.ちゃんとやればアメリカの学会と渡り合える.コンサルより,人材育成としての役割があり,それを失わないようにすべき.
-- 日本の学会が世界のdefact になりえるか? 今は米国,50年前は欧州.移り変わる.
-- ジャーナルの機能の一つは保存.オンライン化は知識が失われる可能性(clocks(?) アクセスできないが,失われないように保管だけする組織)
- 山川:ジャーナルは評価が大切で収入でなくてよい.
-- 武田:質の担保を考えるなら,学会はやはり権威でなくてはならないのではないか?
-- 植田:社会が認めるかどうかに関わらず,価値あるものは価値あるもの.私的に判断してよい,長期間でみないと社会は価値を見いだせないことも.reject されても,レフリーと喧嘩してでも認めさせる努力をすべき.自分のものさしを持つことが大切
-- 武田:社会への認知を考えて作るべき
- 松尾:ジャーナルの貨幣性.キャリア形成上の価値を作り出す機能が学会にできてる
-- 山川:学会の多様化で通貨の価値も多様化.
-- 植田:あいつはすごいやつだというのが本当の評価.実際に話して売り込む方が重要.
-- 木村:若い人の就職には重要
-- 武田:会議・論文誌の格が使われるのは避けられない

松尾:学会の果たすべき機能
- 出会いと交流・議論の場,広報の力,コンサル,権威付け(スクリーニング,スタンプ),保存,教育
- ジャーナル:本質的に,いいものはいいし,悪いものは悪い.私的な基準と,公的な基準と二つあってよい

- 武田:社会に対する役割と私的な役割は分けて考えるべき.権威付けというかブランド力には
- 植田:違う意見でもそれに耳を傾けてクリアするのが質の担保だからreviewは必要
- 松尾:だれかが推してくれるとか,学会以外の基準とか多様化するありうるのでは
- 会場 ながい:オープンレビューは可能になるのではないか? そのとき学会は?
- 松尾:つながりの境界を学会で区切る必要?今でもレビューの循環で決まっている
- 植田:議論して,reject は心情的にいやだけど,学術的観点から reject する真剣さが足りない
-- 明らかに間違ってるなんてことはない.だから,自分の物差しで決めていい
- 会場 はやし:日本の学会は間口が広いが,純粋な学問とはギャップができる.
- 神嶌:オープンピアレビューは多様性を増やす訳ではないと思うので,review は必要

会長西田
- お題が不明:AI学会を消すという話だとすると
-- 人工知能というdiciplineが消滅するということ?
-- 予算の配分には効いている
-- 自分が正しいと思っているが,大きい学会にはまける
-- 25周年を生き残ったことは,やはり大きな節目

AI学会に求められるサービスとは
- 先進的な試みは大きな学会よりやりやすい
- 企業向けはあるけど,社会向けがなかった
- 実装は難しい:ボランティアベース,資源・人・お金が必要
- 学問・学術に誠実に対応したかどうかが重要
- 失って分かる学会という形にはしたくない

まとめ
- 人工知能というdiciplineに誠実であるということをベースに活動すべき

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